009.脱出不能の迷宮に棲む怪物

テセウスのミノタウロス退治

アテナイ王アイゲウスはトロイゼンを訪れたとき、王女アイトラを見初めた。そしてふたりの間に恵子テセウスが生まれる。帰国する際、アイゲウスは大岩の下に剣とサンダルを隠し、アイトラに告げた。
「息子が成長したら、それを持ってアテナイに来させよ。私は喜んでわが子として認めよう」
時が流れ、這しい若者に成長したテセウスは、怪力を発揮して約束の物を手に入れ、父の国を目指した。途中、山賊たちを退治し名を上げ、アテナイに入る。ところが、王妃である魔女メディアは王に先駆けてテセウスの正体を知り、わが子が王座に就くのに邪魔になるとして、彼の毒殺を謀る。だがそのとき、テセウスの腰にある剣にアイゲウスが目をとめて叫んだ。
「その剣は……! そなたは息子か?」
その拍子に毒杯は倒れ、企みが露見したメディアは行方をくらました。こうしてテセウスは、名実ともにアテナイの後継者となったのである。
当時、アテナイは問題を抱えていた。クレタ島の三三ノスに9年に一度、若い男女を貢ぎ物として差し出さねばならなかったのだ。彼らは迷宮に送り込まれ、牛の頭に人間の体をもつ怪物ミノタウロスの餌食となっていた。
テセウスは自ら志願して仲間に加わった。恵子の決心が揺るがないと知り、王は約束させた。
「死地に赴く船は、黒い帆を張りクレタ島に向かう。もし無事に帰還できたら、白い帆に変えよ」

クレタ島に着いた一行の中にりりしい青年の姿を見たミノス王の娘アリアドネは、一瞬にして心を奪われた。彼女は青年を助けたいと思い、迷宮を造った建築家から抜け出る手段を聞き出す。
「テセウス様、私を妻にしてくださるなら、迷宮からの脱出方法をお教えしましょう」
彼が求愛を受け入れると、王女は麻糸の束を渡し、これを迷宮の門に結びつけ、ほぐしながら進むように教えた。迷宮の奥でミノタウロスに遭遇したテセウスは、格闘のすえこれを退治する。糸をたぐって門に戻ってきた一行は、ミノス王の追っ手をかわし、アリアドネとともに船に乗り、アテナイに向けて帆を上げた。
途中、船がある島に立ち寄ったとき、ふたりは別れ別れになってしまう。彼女を置き去りにしたとする説と、嵐で船が戻れなかったとする説があるが、島に残されたアリアドネはその後、酒神ディオニュソスに救われ結婚する。
船はアテナイに近づいたが、テセウスは父との約束を忘れていた。遠くに黒い帆を見た王は絶望し、海に身を投げて死んでしまう。彼は悲しみのうちに父を埋葬し、その跡を継ぎアテナイ王となったのである。