004.カラスに変身して戦士を鼓舞

戦場に死を求める3人の女神

死の女神モリガン、勝利の女神ネヴァン、怒りの女神マッハの3人は、ケルト神話の戦いの女神である。この3人姉妹はひと絶となって、三位一体神と見なされることもある。
彼女たちは戦場にカラスなど鳥の姿に変身して現れる。そして、その姿と叫び声で戦士たちがさらに激しく戦うよう、より残虐な殺教をして多くの血を流すようにそそのかすという。
また、敵に対しては逆に恐怖心を引き起こさせ、戦闘不能の状態にして打ちのめした。
たとえば、カラスに変身したネヴァンは戦士たちの頭上を飛びかって狂乱をもたらし、同士討ちをさせる。彼女はまた、戦士たちに水辺で血まみれの武具を洗う幻影を見せる「浅瀬の洗い手」と
しても知られるが、その武具
の持ち主は、近いうちに余
を菩としてしまうのだ。
マッハも同じくオオカラ
スの姿となって戦場を飛
び、無気味な叫び声を上げて戦士た
ちの間にパニックを引きおこす。そのうえ、なんといってもこの女神は、戦死者の首を食べてしまうのである。
ちなみに、ケルト戦士たちには倒した敵の首を切り落とし、釘を刺して門に飾る風習があるのだが、これは「マッハの木の実の餌」と呼ばれ、彼女に捧げられたものだという。
ところで、この三位一体神の第1人格ともいえるモリガンもまた、カラスの姿で戦場に現れるなど、戦いや復讐の女神であることは間違いないが、意外な一面もある。ふだんは恐ろしい老婆の姿をしているのだが、ときに美女の姿をとって男たちを誘惑するのだ。
あるとき、美女に化けたモリガンは、英雄クー・プーリンに愛をささやいた。だが彼は、その告白を一蹴した。
「今は戦いのときだ。愛にうつつを抜かしている
時間はない」
プライドを傷つけられたモリガンは復讐を誓った。それ以来、彼女はウナギや海蛇、狼などに変身してクー・プーリンの手足にからみつき、彼の戦いの邪魔をしたのである。
だが、後にふとしたことでクー・プーリンに命を救われた彼女は、それをきっかけに、何かにつけて彼の世話をやくことになったのだ。クー・プーリンが恵絶えたとき、彼のそばにつきそっていたのは、カラスに身を変えたモリガンであったといわれる。
ちなみに、この3人の女神はそろってケルトの王ヌァザの妃となり、ともにフォモール族と戦ったが、ネヴァンとマッハは邪眼の巨人バロールによって殺されたという。
また、モリガンはアーサー王の物語に登場する王の異父姉で、彼に敵対する魔女モーガン・ル・フ工イと同一視されている。