014.口承文化の傑作

自然を崇めるアイヌの神話

アイヌは「人間」という意味を持ち、北海道を中心とした地に自然とともに生きてきた民族である。彼らが口承で伝えてきたのが、一般に「ユーカラ」と呼ばれる叙事詩だ。ユーカラとされるものの中には、神々が自分のことを語るカムイユーカラ(神謡)や文化神が活躍するオイナ(聖伝)などがある。
これらには豊富な神話の世界が息づいている。
ここでは、いくつかある創世神話のうちのl部を紹介しよう。
- 世界が一面の泥海に覆われていたとき、天から創造神コタン・カラ・カムイが地上を作るために降りてきた。コタン・カラ・カムイが泥海を見ると、1か所だけ固まりかけたところがあった。

そこを引き上げると大地が現れた。コタン・カラ・カムイは、そこに泥をこねた山を置き、指先で傷つけて川を作った。陸地が完成すると、創造神は天に帰ったのである。
ところが大地と思ったのは、実は大昔から泥海に眠っていたアメマスという巨大魚の背中だった。
創造神は、その背中に陸地を作ってしまったのだ。
大きな陸地を背負わされたアメマスは、激怒して暴れ出した。これが地上に地震が起きるようになった理由である。
- 世界は水も泥も区別のつかない混沌とした状態で、陸地はその上を漂っていた。鳥も魚もいない、荒涼とした世界であった。やがて風が吹きはじめ、雲が現れた。雲のその造かな吉岡みに天の神が現れた。天の神は下を見て、何もない地上に多くの生き物を住ませようと、まず1羽のセキレイを作った。
最初の烏となったセキレイは、光の尾を引いて天降った。そして混沌の上に降り立つと、羽ばたきながら水を跳ね散らし、足で泥を踏み固め、尾を上下させて地ならしした。それをくり返すうちに乾いた陸地ができた。セキレイの働きで陸地は高くなり、やがて島となった。島はいくつも造られ、これらをアイヌの人々は浮かぶ島=モシリと呼んだのである。
- 創造神コタン・カラ・カムイは、地上を造った後に足りないものがあることに気づいた。
そこで夜の神に命じて泥人形を造らせた。夜の神は柳の枝を泥人形の中に通して曽にし、頭にはハコベを取って植えた。夜の神が不思議な扇であおぐと、泥人形は次第に乾いて皮膚を作り、頭のハコベはふさふさとした髪になったのである。
最後にほの欲の玉を体に入れたところ、完全な人間になったという。だが、夜の神が造ったのは男だけだった。そこで同様にして、昼の神が女を造り出したのだ。