001.王位を奪われたダーナ神族

銀の腕のヌァザ

ヌァザは、アイルランドへと侵攻してきたターナ神族の王だった。敵を逃すことのない魔法の剣クラウ・ソラスを所持した彼は、まさしく戦いの神だった。
ターナ神族はアイルランドの先住民族であるフィル・ボルク族と激しい戦いをくり広げた。そして、王であるヌアザは彼らを勝利に導くのだが、その代償として片腕を失ってしまった。
五体満足でない者は王ではいられない…・これがケルトの文化圏における提であった。
こうして、そのめざましい働きにもかかわ
らず、ヌァザはアイルランドの王となることはできなかったのだ。
ヌァザに代わって王となったのは、ターナ神族の血を引くフォモール族のブレスだった。だが、彼には王としての資質が著しく欠けており、法を無視し、欲のみに走ったその政治のために、アイルランドは荒れはててしまったのである。
そのころ、ヌァザは鍛冶と医術の神であるディアン・ケヒトが作った銀製の義手を身につけ、力を取りもどした。以降、彼はヌァザ・アルガト・ラム、すなわち「銀の腕のヌァザ」と呼ばれるようになった。さらに彼は、ディアン・ケヒトの恵子ミアハの手術により、失った腕を完全に再生することに成功した。
ヌァザの体は元通りになったのだ。
こうなるとヌァザに怖いものはない。彼は直ちにブレスから王位を奪還した。だが、ブレスはこれを不服とし、フォモール族に助けを求めたのだ。
こうしてターナ神族とフォモール族との戦いが勃発した。しかし、この戦いはフォモール族の勝利に終わり、ヌァザはターナ神族の王位を光の神ルーに譲る。
その後、再度フォモール族に戦いを挑んだターナ神族は、なんとか勝利を得ることができた。しかし、続いて出現したミレー族に敗れてしまったのである。
そして、ヌァザ以下のターナ神族は地下世界へと追放きれ、細々と生きることになってしまったのだ。このときヌァザには当時、王だったターナ神族の長老タグザから、住まいとなる妖精の丘アルム・シーが与えられた。
ちなみに、ヌァザに銀の腕を与えたディアン・ケヒトは、父である自分より腕のいい恵子ミアハに嫉妬し、彼をずたずたに切り裂いて殺してしまったという。
それだけではない。兄ミアハを生き返らせようとした娘アミッドが、マントに薬草を載せているのを見て、それをひっくり返してしまった。そのため、アミッドはミアハを蘇生する薬を作ることができなくなってしまったのである。