002.兄妹神の結婚が生んだもの

国土と八百万の神々の誕生

イヴナギ命、イヴナミ命は天からの通路である天浮はし橋に立った。そして、天の神々から受けた天沼矛を下界に下ろしてかき回す。矛を引き上げると、その先から滴った海の塩が積もって、オノゴロ島という島ができあがった。ふたりはそこに降りて天御柱を立て、八尋殿を建てた。
ここでイヴナギはイヴナミに尋ねた。
「おまえの体はどのようにできているか?」
「私の体は成り整い、成り合わないところがひとつあります」
「私の体は成り整い、成り余ったところがひとつある。だから、私の体の成り余ったところで、おまえの体の成り合わないところをふさいで、国を生もうと思う」
「そういたしましょう」
「では、この天御柱を回って、出会ったところで契ろう」
そして、イヴナギは柱を左から回り、イザナ三は右から回った。出会ったとき、イヴナ三が 「さてもよい殿御」 といい、後からイヴナギがこういった。
「さてもよい乙女」
こうしてまず生んだのは、ヒルのようなヒルコ(蛭子神)と不完全な島である淡島だった。これを凶兆と捉えたふたりは、ヒルコと淡島を葦舟で流した後、天の神にお伺いを立てた。
すると、次のような託宣が下った。
「女が先に言葉を発したからこのようなことになった。元の地に帰り、改めて行え」 ふたりはオノコロ島に戻り、また天御柱の周囲を回り、今度は先にイザナギが声をかけて契った。
すると、無事に多くの国土と神々が生まれ出たのである。このときに生まれたのは、淡路島、四国、隠岐島、筑紫島(九州)、壱岐島、対馬、佐渡島、そして大倭豊秋津島(本州) の8つの島である。これらを「大八洲国」と呼ぶ。
次に35柱の神々を生んだ。石、土砂、門、風、海、木、山、野の神々などである。
さらに火の神であるホノカグツチ神(火之迦異土神)が生まれた。ところがこの神を生む際、イザナミは陰部に大火傷を負ったのだ。病床で苦しむ彼女の嘔吐物や排泄物からも、神々は生まれた。
だが、火傷はひどく、イザナミはついに亡くなった。彼女の遺体は出雲国(島根県東部)と、伯蕾国 (鳥取県西部)との境にある比婆山に葬られた(これについては三重県熊野市にある花の窟神社とする説もある)。
イヴナギは妻の死をもたらしたホノカグツチを怒り、腰の十挙剣でその首をはねた。すると、ホノカグツチの飛び散った血と体から、合わせて16柱の神が生まれ出たという。