003.アイルランドにもたらされた神の恩寵

ダーナ神族の4つの秘宝

北方よりアイル一フンドに侵攻する前に、ターナ神族はそれぞれフィンディアス、ムリアス、コリアス、ファリアスと呼ばれる4つの島を訪れていた。彼らはそれらの島で、それぞれひとつずつ秘宝を手に入れた。その4つとは以下のようなものである。

●ヌアサの剣
(クラウ・ソラス=光の剣)と呼ばれるこの剣はフィンディアスからもたらされ、ターナ神族の王ヌアザが携えていた。ひとたび鞘から抜けば、周囲の敵の目をくらまし、標的を定めれば、だれも逃れることはできないという必殺剣だ。
ただし、ヌアザがこの剣を使いこなしたという伝説はほとんど見当たらず、フォモール族との戦
いでも、ヌアザ自身、邪眼のバロールに敗北しているので、他の秘宝に比べると、いささか地味かもしれない。

●タグザの大釜
豊篤と死と再生の神であり、かつターナ神族の最高神でもあるタグザの持ち物である。ムリアスからもたらされたこの釜で煮炊きした食べ物は、決して減ることなく、無尽蔵に人々をうるおしてくれる。
ちなみに、ウェールズの神話にも魔法の大釜が登場するが、これはブリタニア王よりアイルランド王への貢ぎ物だったという。その力はタグザの大釜とは異なり、死んだ兵士をひと晩煮ると、生き返るというものだった。ただし、延った兵士は口をきくことはできなかったという。

●ルーの橋
本来の名称は(ブリユーナク=買くもの)で、コリアスよりもたらされた、勝利を約束する槍だが、ルーに与えられたために、こう呼ばれるようになった。
この槍は穂先が5本に分かれており、それぞれの切っ先から放たれた光は、一度に5人の敵を倒すことができるという。そのため「投げると稲妻となって、敵を死に至らしめる灼熱の槍」などともいわれている。さらに、まるで生きていて意思を持っているかのごとく振舞い、自動的に敵に向かって飛んでいくのである。

●王を決定する聖石
アイルランドを支配する王が正当であった場合、この(リア・ファル=運命の石)に触れると、大きな声で叫ぶという。ファリアスから持ち込まれたものである。
リア・ファルは代々の王が君臨した王宮のある丘に据えられた平たい石である。かつて百戦のコン王と呼ばれた優れた王が、たまたまこの運命の聖石を踏んだところ、石はこれから後のコン王の子孫で、アイルランドを支配することになる王の
数だけ叫んだという伝説もある。