003.イザナギの黄泉国下り

亡き妻を求めて…

亡き妻をあきらめきれないイヴナギ命は、イザナミ命を死者の国である黄泉国まで追っていった。
御殿にいた彼女は、門のところで夫を出迎えた。
イヴナギは妻に話しかけた。
「おまえとともに始めた国造りはまだ終わっていない。ともに帰ろう」
イヴナミは答えた。
「私はもうこの国で煮炊きしたものを食べてしまいました。今はこの国の者です。でも、愛しい方がおいでくださったのですもの。この国の神と話し合ってみます。その間、絶対に私の姿をごらんにならないように」
イザナミはそういうと、御殿の奥に引き上げた。
だが、なかなか返事が来ないことに焦ったイザナギは行動を起こした。魔除けの櫛の歯を1本折って火を点し、御殿の奥に踏み込んだのである。ところが、そこでイザナギが見た妻の姿は、凄まじかった。体には姐が湧き、頭、胸、腹、陰部、両手、両足には、それぞれ8体の雷神が取りついていたのである。
これを見たイザナギが怖気をふるって逃げようとすると、後ろからイザナミが叫んだ。
「よくも恥をかかせてくれましたね」
そして、黄泉国の醜女たちにイザナギの後を追いかけさせたのだ。イザナギは髪につけていた黒い鬘を投げ捨てた。すると、そこからヤマブドウの実がなり、イヴナギは醜女たちがそれを食べている間に、必死で逃げた。再び追いつかれそうになったので、櫛の歯を折って投げた。今度はタケノコが生えたので、醜女たちが食べている問に、イザナミはさらに遠くに逃げた。
ところが、イザナミは8体の雷神に1500の軍兵をつけ、さらに追いすがった。
やっとの思いで彼は、黄泉国と現世の境目である黄泉比良坂までやってきた。イザナギはそこで邪気を退ける果実である桃を見つけた。これを3つ投げつけると、さしもの軍兵もことごとく逃げてしまったのである。
最後に、イザナミ自らが追いかけてきた。イザナギは、巨大な千引岩を黄泉比良坂に据えた。
ふたりは千引岩をはさんで向かい合った。
「あなたがこんなことをするなら、私はあなたの国の人間を1日1000人絞め殺します」
イザナミのこの言葉に、イザナギが答えた。
「妻よ、おまえがそうするのなら、私は1日に1500人が生まれるようにしてみせよう」
こうして、この世では一日に1000人が死ぬ一方で、1500人が生まれるのである。
ちなみにこの後、イザナミは黄泉国の大神となっている。