003.三神一体のひとり

権威を失墜した創造神ブラフマー

シヴァ、ヴィシュヌとともに、ヒンドゥー教の三神一体を構成する神のひとりで、「世界の創造」を司るという、きわめて重要な役割をもっていた神がブラフマーである。
「ヴエー夕」時代には、聖典に内在する神秘的な力を表す非人桔的な原理(ブラフマン)として用いられていた。宗教哲学書「ウパニシャッド」が重視される時代になると、宇宙の根本原理として位置づけられ、人格化されて、ブラフマーとなったのである。
ふつうその姿は、赤い体に白衣、4つの顔、4本の手に水士軍数珠、芽、聖典『リグ・ヴェ-ダ』を持ち、水鳥に乗った姿で描かれる。白い髭の老人で表されることも多い。妻は知恵と学問の女神
サラスヴァティーである。
彼がかかわった創造神話は次のようなものだ。
宇宙に何もなかった時代のことだ。スヴァヤンプー(自ら生まれる者)は、水を作って種子をひとつまいた。ヒラニヤガルハ (黄金の卵) である。
ブラフマンはこの卵のなかで成長した。そして1年後、卵を半分に割り、それぞれの半分から天や地などを生んだ。その後、ブラフマーは自分が生んだ女神サラスヴァティーと夫婦となり、人間を作り出す。なお、人間に吉葉や物事の識別能力を与えたのは妻の女神だという。
これでもわかるように、彼は当初は確かに最高神であり、神話の中にも彼の命令でシヴァやヴィシュヌが魔神退治に出動する話が多い。

だが、ウパニシャッドが語る宇宙の根本原理についての哲学は、あまりにも抽象的でむずかしい。
そのため、シヴァとヴィシュヌが具体的な英雄として民衆に支持されるにしたがって、ブラフマーの神としての地位は下がっていった。
それを証明するかのように、その後の神話では、ブラフマーの地位をシヴァやヴィシュヌより一段下に置いたものが多くなっていく。
たとえば、ヴィシュヌ派の神話の中では、ブラフマーはヴィシュヌのへそに咲いた蓮の花から生まれたとされている。
また、宇宙の創造はシヴァのリンガが行い、ブラフマーはそれを賛美したとまで書かれている。
さらに、ブラフマーの顔は本当は5つあったのだが、無礼な話し方をしたという理由でシヴァの怒りに触れ、彼の爪で首をひとつ切り落とされたという詰まであるのだ。
民衆にとっては、単純で明快な現世利益を与えてくれる神のほうが信仰しやすいのは当然だろう。
なお、ブラフマーは仏教に取り入れられた後は「梵天」と呼ばれ、上方を守る仏法の守護神となった。