004.雨族の威信を賭けた一騎討ち

雷神トールと巨人の闘い

アスガルドの神々の中で一番の豪傑といえば、赤髭の巨漢トールだろう。その怪力を示す逸話には事欠かない。
オーディンが駿馬スレイプニールに乗り、霜の巨人が住むヨツンヘイムを通りかかったときのこと。巨人フルンクニールが声をかけた。
「よい馬に乗っているが、わしの黄金のたてがみを持つ牝馬のほうが、もっと名馬だな!」 そして、フルンクニールは愛馬に飛び乗り、オーディンを追いかけた。オーデインはアスガルドの門に向かって馬を駆る。
だが、オーディンが入った後、門が閉じられる寸前、巨人も中に飛び込んだ。入ったからには、巨人といえども客人である。しかたなく神々は酒を勧めて歓待した。酔った巨人は思わずロを滑らせてしまう。
「わしは無敵だ。アスガルドの神々など皆殺しにして、いつかこの国を手に入れてやる」 これには神々も怒りを露にし、トールが呼ばれた。そして後日、彼は巨人と決闘することになったのだ。
フルンクニールは石の頭、石の心臓、石の楯を持ち、武器は巨大な火打ち石。一方トールの最大の武器は、投げれば敵を撃った後に手元に戻り、掲げれば雷を落とすミヨルニールというハンマⅠだ。そこで巨人たちは士をこね、身長9マイル(約14キロ)、肩幅3マイル(約4・8キロ)もある巨人を作り、牝馬の心臓を入れて従者とした。対するトールの従者は、切れ者のシァルファイである。
決戦のとき、シァルファイは叫んだ。
「フルンクニール! おまえの自慢の楯は、なんの役にも立つまい。トール様は武器を足元に向かって投げるはずだからな」
巨人はあせって足をかばい、楯を大地に置いた。楯を放したフルンクニールに、トールは二元に襲いかかった。牝馬の心臓しかもちあわせない巨人の従者は、主人の危機にもかかわらず、恐怖にかられ逃げ出してしまった。
トールのハンマーはフルンクニールの武器とぶつかって、激しい火花を散らした。火打石は粉々に砕け、神の鉄槌は巨人の頭を打ち砕いた。こうしてトールは一騎討ちに勝利したのだ。
ところが、倒れた巨人の下敷きになったトールは、身動きがとれない。そこにやってきたのが、トールの息子マク二だ。息子は巨人の体を軽々と動かし、父を救出した後にこういった。
「こんな巨人は、私の拳でやっつけたのに」
このマク二、このときわずか生後3日目だったというから驚きである。トールは喜び、巨人の愛馬(黄金のたてがみ)を与えたという。