005.日本神話最大の怪物登場

スサノオ尊のヤマタノオロチ退治

高天原を追放されたスサノオ尊は、出雲の肥河の川上にあたる烏髪という地に降り立った。
彼が川をふと見ると、箸が流れてきた。上流に人が住んでいる証と思い、スサノオが川を上っていくと、老夫婦と美しい娘が泣いていた。
スサノオは尋ねた。
「おまえたちは何者か? そして、なぜ泣いているのだ?」
老人が答えた。
「私の名はアシナヅチ(足名椎)、妻はテナヅチ(手名椎)、そして娘はクシナダヒメ(櫛名田比売)と申します。私どもの娘はもともと8人おりましたが、ヤマタノオロチ(ハ岐大蛇)が毎年やって来ては、娘を食べてしまいます。もうすぐまたオロチが来るので、最後の娘を食われてしまうと思うと、悲しくて悲しくて…」
「そのヤマタノオロチとは、どのような姿をしているのだ?」
「目は熟したホオズキのように真っ赤で、体はひとつですが、頭は8つ、尾も8本あります。体には否やヒノキ、スギが生えており、その長さは8つの谷、8つの峰におよび、腹を見ると一面、血が潜み、ただれています」
それを聞いても、スサノオは恐れず、
「私がそいつを倒したら、おまえの娘を私にくれぬか? 私はアマテラス大神の弟、スサノオだ。たった今、天から降りてきたところだ」
アシナヅチは恐縮した後に懇願した。

「娘は奉りますゆえ、ぜひお助けください」 スサノオは答えた。
「では、何度も醸造して濃くした酒を作れ。また、垣をめぐらして8つの門を作り、8つの桟敷を作ってそれぞれに酒桶を置き、その中にできた酒を入れて、待機しなさい」 彼らがそのとおりにして待っ
ていると、はたしてオロチがやってきた。オロチは門から入って桟敷に身を横たえ、8つの頭を8つの酒桶に入れ、酒を飲み干すと酔いつぶれて寝てしまった。
それを見てスサノオは、十拳剣を抜くと、オロチをずたずたに切り刻んだのである。
ちなみに、スサノオがオロチの尾の1本を切ったところ剣の刃がこぼれたので、不思議に思い調べてみると、鋭い太刀が出てきた。この剣こそ、後に名古屋市の熱田神宮のご神体にもなっているくさなぎのつるぎ草薙剣なのである。
オロチを退治したスサノオは、クシナダヒメをともなって、新居となる寓を建てる土地を出雲に捜し求めた。そして見つけたのが須賀である。この名は、スサノオがその地をことのほかすがすがしく感じたところから来ているとされる。また、スサノオがこの地に須賀の宮を作ったとき、しきりに雲が立ちのばったという。