006.シヴァとサティーの悲恋物語

猛火に自ら身を投じた美女

ブラフマーの子どものひとり、タクシャにはサティーという美しい娘がいた。彼女が適齢期に達すると、(婿選びの儀式)のために大勢の神が集められた。サティーが気に入った神に花輪をかけると、その相手との結婚が決まるのである。
だが、この儀式にタクシャはシヴァだけは招待しなかった。魔物たちを従えた破壊と残虐の塊のような恐ろしい神が自分の婿になるなど、とんでもないことだったからだ。
ところが、父親は気づいていなかったが、実はサティーの心はシヴァだけに向けられていたのである。彼女は、その場にいないにもかかわらず、悲しみのうちにシヴァだけを念じて、天に花輪を投げた。すると突然、シヴァが出現して、花輪は
その首にかけられたのだ。サティーは天にも昇る心地だった。タクシャも儀式として成立してしまった以上、認めざるを得ない。
だが、ふたりが結婚して以降も、タクシャはことあるごとに不満を露わにしつづけた。
ある日、タクシャは妻とともに、シヴァの住まいを訪れた。シヴァとサティ1はふたりを精いっぱいもてなしたが、タクシャはまったく満足せず、不快な顔をしたまま帰ってしまった。
その後、タクシャは神々を招いて盛大な供犠祭を催したが、彼はまたも婿であるシヴァを招待しなかった。サティーは夫の名誉のために、父に強く抗議したが、逆に馬鹿にされるありさまだった。
そのあまりにひどい仕打ちに、サティーは打ちのめされ、嘆いた。そして燃えさかる火に、自らの体を投じてしまったのである。
これを知ったシヴァは激怒し、タクシャの供犠祭が行われている場所に乗り込み、すべてを徹底的に破壊した。そして、妻を失った悲しみのあまり、狂気にとりつかれてしまうのである。
この後、シヴァはサティーの遺体を抱いて各地を放浪し、多くの都市を破壊した。だが、シヴァのあまりの暴挙を見かねたヴィシュヌは、自らの武器である円盤を投げてサティーの遺体を細かく切り刻んだ。事ここにおよんで、シヴァはやっと正気を取り戻したのである。
なお、サティーの遺体の肉片が落ちた場所はすべて聖地となり、肉片ひとつひとつが土着の女神として再生した。シヴァにとっては、それらはすべてサティーであった。そのため、シヴァには何百人もの妃がいるのである。
またサティーは、ヒマラヤの神の娘パールヴアティーとして生まれ変わり、女性を受け入れまいとするシヴァのかたくなな心を解いて、新たな妃となった。