007.おなじみのおとぎ話のルーツ

オオクニヌシ神と因幡の白兎

出雲の須賀に宮を構えて、夫婦となったスサノオ尊とクシナダヒメの間に、1柱の男神が生まれた。この神が別の神の娘と契って、2柱の神が生まれた。神々はさらに神々を生み、多くの神々が現れた。そして数世代後、ある神が生まれた。オオクニヌシ神(大国主神) である。
オオクニヌシには、八十神と呼ばれる80柱の兄弟がいた。あるとき、これらの兄神たち全員が因ま幡(鳥取県東部)に住むヤガミヒメ(八上比売)に求婚するため、旅に出ることになった。
そのとき彼らは、末弟のオオクニヌシに荷物を負わせ、家来扱いで連れていった。
オオクニヌシよりひと足先に兄神たちが気多岬に着いたところ、浜辺に1匹の兎が赤裸で倒れていた。兄神たちはいった。
「その赤裸の肌を治したいなら、海水を浴びて風に当たり、山の上で寝てるとよいぞ」
兎は喜んで教えのとおりにした。ところが海水が乾くにつれ、赤肌は風に吹かれてひび割れ、痛みが増した。兎が激痛に泣いていると、遅れてやってきたオオクニヌシが尋ねた。
「どうした、なぜ泣いておるのだ?」
兎は答えた。
「私はかつて隠岐島にいて、こちらの国に渡りたかったのですが、その術がないので、海のワニを騙したのです。すなわち『おれとおまえとどちらの同族が多いか数えてみないか? おまえが同族を全部連れてきて、この島から気多岬まで列を作れ。おれがその上を走りながら数えよう。それでどちらが多いかわかるだろう』と。そして、そのとおりにワニの上を走って、渡りきろうとした間際に、つい 『おれに騙されたのさ』といってしまったのです。そのとたんり二たちに捕まり、皮をはがされてしまいました。痛くて泣いていたら、先に来られた神々が、治療法を教えてくれたのですが、そのとおりにしたら、もっとひどくなりました」 オオクニヌシは、次のように告げた。
「河口に行って真水で体を洗い、そのあたりに生えているガマの花粉を敷き散らして、その上に寝転がれば、必ずもとの肌に戻るぞ」 兎がそのとおりにすると、肌は本当にもとどおりになった。この出来事から、この兎は「因幡の白兎」と呼ばれるようになった。
さて、治った兎はこういった。
「先に行かれた神々は、ヤガミヒメを嬰ることはできません。嬰るのはあなたです」
この予言どおり、兄神たちがヤガミヒメのもとに着いたところ、彼女はこう宣言したのだ。
「私はあなた方のもとには嫁ぎません。オオクニヌシが私の夫になるでしょう」