009.あの孫悟空のモデルになった

猿の戦士ハヌマーン

叙事詩『ラーマーヤナ』 の中で、ラーマの友として、最も活躍する猿の戦士が、ハヌマーンである。名前の意味は「顎骨を持つ者」、父は風神パワアナで、母は水の精霊アンジャナー。
以下は 『ラーマーヤナ』 におけるハヌマーンについての記述である。
「ハヌマーンの顔はルビーのように赤く輝き、尾は限りなく長く、吠える声は雷のようであり、天空を凄まじい音を立てて飛ぶ。力もとびきり強く、たくさんの樹木を根こそぎ取り払ったり、ヒマラヤの山を引き抜くこともできた。
ハヌマーンは、以前は天界の生き物だった。あるとき、太陽のまばゆい光に魅せられてしまった。
そこで、太陽を捕まえようと天空を駆けた。見慣れぬ生き物に追われることになった太陽神スーリヤは驚くほかなかった。次第に恐ろしさを覚えるようになったので、英雄インドラに助けを求めた。
その声を聞きつけたインドラは、ハヌマーンを見つけると大地にたたき落としてしまった」 ここではインドラにあっさり負けてしまうハヌマーンだが 『ラーマーヤナ』 では、無類の強さを発揮する存在として描かれている。俊敏で、姿や大きさを自在に変える能力を持ち、勇猛果敢に悪神アスラを倒していく。
『ラーマーヤナ』 では、こんな活躍もしている。
- 魔王lフーヴアナがある島にラーマの妻を隠していることを知ったハヌマーンは、さっそく赴こうとした。そのとき、一フーヴアナの妹で魔女のスーサラが現れ、ハヌマーンを飲み込もうとした。
大口をあけてハヌマーンに向かうスーサラに対し、彼は体を巨大化させて対抗する。スーサラの口は、さらに大きくなる。
次の瞬間、ハヌマーンは体を人間の親指ほどの大きさに縮めた。そして、猛スピードでスーサーフの口の中に飛び込むと、彼女の頭蓋骨の中を駆けめぐったのである。これではスーサラもたまらない。彼女は脳をずたずたにされて、絶命してしまった。
ちなみに、ハヌマーンはスーサラの右耳から脱出したという。
この後、ハヌマーンはラーマと協力して、その妻シーターを助け出すのである。
ハヌマーンに対する信仰は現在でも篤く、インドや中国、ネパールなどに広く棲息する尾長猿の一種、ハヌマーンランクールはこの神の蕃属と見なされ、ヒンドゥー教寺院において、手厚く保護されているという。
なお、彼の活躍が中国に伝わり、『西遊記』におけるヒーロー・孫悟空のモデルになったとする説もある。