• 010.天地を揺るがす最終決戦

010.天地を揺るがす最終決戦


ラグナロク---神々の黄昏

迫りくる終末の予兆

北欧神話の大きな特徴は、神々が不死ではなく、その世界が壮絶な戦いの末にすべて滅んでしまうという終末予言にある。それは古くからラグナロク(神々の黄昏)と呼ばれた。
--神々は予言によって、いつか世界の終末がくることを知っていた。そしてそのときこそ巨人たちとの最終決戦の日だということも。
その日に備えて、オーディンは玉座から常に巨人たちの動向を見張り、アスガルドの入り口には番人ヘイムダルを常駐させていた。女戦士ワルキューレたちを戦場に放ち、戦死した勇者たちをたくさん集めさせ、ワルハラ宮殿で戦闘訓練をさせ
ていたのも、すべてラグナロクに備えるためだった。オーディンには、その日が近づいているように思えてならなかった。
(光り輝く恵子パルドルが死んだのは、世界にかげりがさす予兆だったのではなかろうか?) オーディンの予知は正しかった。世界はラグナロクに向かって、確かに動きはじめていたのだ。
地上からは美しいものや清らかなものが消え、人心は荒れ、悪と暴力がはびこった。兄弟は殺し合い、子が父と戦う……。
世界の終末を知らせるように日の光は徐々にかげり、身を切るような冷たい風が吹きすさび、雪はすさまじいほど降り積もった。厳しい冬が3年続き、すべての生き物は倒れ、死んでいく。

太陽と月は姿を消し、星も隠れて、世界は闇に覆われた。大地は揺れ動き、樹木は根こそぎ倒れ、山も崩れ落ちた。あらゆる命が巻き込まれ、あらゆる命が消える。
しかも、この世の悪を束縛していた鎖が飛び散り、封印が解かれた。魔狼フェンリルを拘束した魔法の鎖も、悪神ロキを縛った内臓の鎖もちぎれ、神々への復讐に燃えたふたりは地上に躍り出た。
沸き立つ海水の中から大蛇ヨルムンガンドが猛り狂って這い出してきた。
波が猛然と押し寄せ、川は溢れ、水が陸地を覆った。そんな大洪水の中、水底から幽霊船が浮かび上がる。乗り手は舵取りの巨人フリムのほかは死者たちだ。
フェンリルは下顎が地に、上顎が天に届くほど大きく□を開け、鼻から火を吹きながら、アスガルド目指して走ってきた。ヨルムンガンドも毒を吐きながら向かってくる。これまであまり接点のなかった、炎の世界ムスペルヘイムの巨人たちまで乗り込んできた。その先頭には、巨大な炎の剣を握った、灼熱の巨人スルトルが立っている。地獄の住人たちを残らず引き連れて、あのロキも駆けてくる。
さらに神々に恨みを抱く霜の巨人たちも、ここぞとばかりアスガルドに押し寄せた。

神々の壮絶な戦闘

この恐ろしい光景を見たアスガルドの見張り番ヘイムダルは、最終戦勃発の警告であるギャラルホルンの角笛を力の限り吹き鳴らした。それを合図に神々は戦闘準備を始め、オーディンはミ-ミルの泉に下り、買者の助言を仰いだ。
ヨルムンガンドに相対したのはトールだった。神々きっての強者と大蛇の血みどろの戦いは壮絶をきわめた。ついに勇者トールは自慢のハンマー・ミョルニールをふるって大蛇を倒す。しかし卜ールもまた、数歩下がるとばったりと倒れ伏した。大蛇の猛烈な毒に犯されたのだ。
その間、ヘイムダルはロキと相討ち
ついに戦闘の火ぶたは切って落とされ、神々とワルハラに居する戦士たちは、武器をとって戦場に向かう。先頭に立つのはオーディンだ。
グングニルの槍を構え、フェンリルに立ち向かう。だが激戦の末、オーディンは魔狼に飲まれて命を落としてしまう。それを見て、すぐさまオーディンの愛息ヴィザルがとびかかった。そしてフェンリルの顎を引き裂き、心臓に剣を突き立て、父の敵をとったのである。
になって、命を落としていた。ティールは死者たちの群れを相手に、孤軍奮闘していた。しかしこの勇敢な軍神も地獄の番犬ガルムと戦い、倒れた。
勇敢な女戦士ワルキューレたちは炎の巨人たちを相手に戦うが、全員が敗れ去った。
炎の巨人スルトルは、鹿の角で善戦するフレイをきらめく炎の剣で切り倒す。このときフレイに魔法の剣があれば、勝敗は変わっていたかもしれない。だが彼は、妻を手に入れるために、宝剣を手放していたのだ。
最後にスルトルは手にしていた炎の剣を投げつけた。剣から立ち上る灼熱の炎は世界樹ユグドラシルに燃え移り、やがて神の国は炎上した。炎に包まれた世界樹は倒れ、大地は海の底へ沈んでいった。こうして神々の世界は、予言どおり滅び去っていったのだ。
しかし、沈黙と暗黒の後には新たな日々が始まる。海底から青々とした新しい陸地が浮かび上が
ってきたのだ。その大地は種を蒔かずとも植物が育ち、収穫ができた。新しい太陽が生まれ、地上を温かい光で照らした。これまでの悪や罪はすべて消え去り、バルドルは復活し、光と美が世界に戻ってきた。
ほんの数人だったが、オーディンの息子やトールの恵子など生き残った神もいた。彼らは以前アスガルドがあった跡に集まり、神々の時代を懐かしんだ。一方、地上に炎が荒れ狂っていたときにも、ひと組の人間の男女、リブとリブトラシルは森の奥に隠れ、朝露をすすって命をつないでいた。
生きのびたこの夫婦は、その後たくさんの子を産み、やがて世界を満たすほどの子孫が生まれたという。
予言によると、いつの日か神々を超えた神、ひとりの超越的な存在が降臨してくるとされている。
しかし、それが何もので、どのような働きをする
のかは、謎に包まれたままである。


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