011.ニニギ命の息子たち

海幸彦と山幸彦

燃えさかる産屋で生まれたニニギ命とコノハナサクヤヒメの子どもたち。長兄ホデリ命は海幸彦として大小の魚を捕り、末子のホオリ命は山幸彦として大小の獣を獲っていた。
あるときホオリはホデリに、互いの道具を交換して使いたいと頼んだ。ホデリはしぶしぶ承諾した。ところが、ホオリは1匹も釣れなかったばかりか、その釣り針をなくしてしまったのだ。ホデリも獲物を捕らえられず、 「海の幸も山の幸も、やはり自分の道具でなければとれない。もとどおりにしよう」 と、漁具を返すように迫った。ホオリが釣り針をなくしたことを告げると、ホデリはどうあっても返せ、とホオリを責めた。弟は自分の剣から1500本の針を作ったが、兄は拒絶した。
「絶対にあの針でなければだめだ′」
ホオリが海辺で嘆いていると、潮路の神がやってきて嘆きの理由を聞いた。ホオリが話すと、神は小舟を造り、その舟に乗って海の神であるブタツミ神(綿津見神) の宮殿に行くように勧めた。
宮殿でホオリはっタツミの娘卜∃タマヒメ (豊玉畏売) に出会い、恋に落ちた。ワタツ三もホオリがニニギの子であることを悟り、ふたりの結婚を認めた。
ホオリは妻とともに、宮殿で3年間を暮らした。
ある日、彼はここへ来た理由を思い出し、ウクツミに相談した。ウタツミが魚たちに聞いた結果、釣り針が赤鯛の喉に引っかかっていることがわかったのである。目的のものを手に入れて地上に戻るホオリに、ワタツミはふたつの珠を渡した。ひとつは潮満珠、もうひとつは潮乾珠といい、潮の干満を支配できる珠であった。

また、ワタツミは彼に忠告した。
「釣り針を兄上に返すとき『この針は憂鬱の釣り針、焦りの釣り針、貧乏の釣り針、愚かな釣り針』といいながら、後ろ手で渡しなさい。兄上が高地に田を作ったらあなたは低地に、兄上が低地に田を作ったらあなたは高地に田を作りなさい。兄上が攻めてきたら潮満珠で溺れさせ、許しを請うてきたら潮乾珠で助けなさい」
ホオリは、ワタツミのいうとおりに釣り針を返し、田を作った。水を司っているのは海の神ブタツミなので、ホデリの田には水が行きわたらず、兄は次第に貧しくなっていったのである。
そして弟のものを奪おうと、ホデリが攻めてくると、ホオリは潮満珠を使ってこれに対抗した。
また、ホデリが許しを請うと、潮乾珠を使って救ったのである。これを何度かくり返しているうちに、ホデリは降参し、ホオリに頭を下げて謝ったという。