018.闇の中でしか会えない夫

愛の神エロスが恋した女

ある国の王に3人の娘がいた。末娘のプシュケは絶世の美女だった。人々は彼女を称え、実の女神アフロディテを軽んじるようになった。屈辱にうち震えた女神は、恵子のエロスを呼んだ。
「おまえの矢で、あの女がこの世で一番下品で醜い男に恋するように仕向けなさい」
彼の矢に射られた者は、最初に見たものを愛さずにはいられないのだ。だが、エロスは誤ってその矢で自分を刺し、プシュケヘの愛の虜になった。
このころから、降るようにあったプシュケヘの結婚の申し込みがなくなった。これは彼女を他の男の妻にしたくないエロスの仕業であった。そのため、ふたりの姉は嫁いでいるのに、プシュケはひとりのまま。王は心配し、アポロンの神託を受けた。ところがそれは、
「娘を岩山に立たせれば、怪物が夫となろう」
という恐ろしいものだった。だが、神託に従わないわけにはいかない。プシュケは運命を受け入れ、岩山に立った。西風が彼女をさらった。気がつくとプシュケは美しい宮殿の中にいた。彼女の新たな生活が始まった。声だけの召使いにかしずかれ、夜のみ寝室を訪れる夫を待つ日々。姿を見ることは禁じられたが、暗闇でプシュケを抱く夫の腕は優しい。彼女は幸せだった。
「無事に暮らしていることを皆に知らせたいの」
妻の願いに、夫はしかたなく姉たちに会うことを許した。だが、怪物の夫と幸い日々を送っていると思っていた妹が豪華な暮らしをしているのを見て、姉たちは嫉妬した。そして、プシュケにこっそり夫の姿を見るようそそのかした。
ある晩、プシュケは夫が眠るのを待ち、ランプをかざした。目の前に浮かび上がったのは、美しい若者の姿だった。目を覚ましたエロスはプシュケに自分の素性を明かし、約束を破ったことを責めた後に婆を消した。後悔したプシュケは各地をさまよい、夫を捜した。だが見つからない。万策尽きた彼女はアフロディテの神殿を訪れた。
しかし女神の怒りは解けておらず、プシュケは数々の難題を与えられた。それらを達成した後の最後の課題は、冥府から実の秘薬を持ち帰るというものだった。無事に入手したものの、彼女は誘惑にかられ、秘薬の入った箱を開けてしまう。
ところが、箱の中身は美ではなく、冥府の眠り=死であった。エロスは死んだ妻に神の酒を飲ませて復活させ、神々の仲間とした。
ゼウスの仲介で母との仲も修復されたふたりは、正式に結婚することを許されたのである。