001.神話はホメロス以前からあった

世界の神話の中でも、最もなじい深いものと言えば、やはりギリシア神話だろう。内容の豊富さも相まって、文学・芸術的な面においても後世の文化に与えた影響は際立って大きい。

とくに、ヨーロッパ文化を理解するためには、ギリシア神話の知識は欠かすことができないといわれるほどだ。それは、当然のことだろう。

ギリシア神話はポリス時代のギリシアを経てローマに伝わり、ひいてはルネサンスまで引き起こしたのだから・・・・

さて、現在伝わるギリシア神話のベースになっているのは、主に4つのド叙事詩である。まずは、紀元前8世紀ギリシアの詩人、ホメロスによる「イリアス」と「オデュッセイア」、そしてほぼ同時代の、同じくギリシアの詩人ヘシオドスによる「神統記」と「仕事と日々」である。

周知のとおり「イリアス」はトロイア戦争最後の10日間を描いたもので、「オデュッセイア」はそのトロイア戦争で活躍した知将オデュッセウスの10年にわたる放浪物語だ。対して、「神統記」は神神の起源や系譜を描いた叙事詩であり、「仕事と日々」は神話を通して仕事の大切さを語ったものだ。

だが、これらに登場する神々や神話はホメロスやヘシオドスによる創作ではない。彼らふたりの叙事詩が成立する遥か以前から、ギリシアの人々によって尊崇され、親しまれてきたものだったのである。