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005.日本神話最大の怪物登場

スサノオ尊のヤマタノオロチ退治

高天原を追放されたスサノオ尊は、出雲の肥河の川上にあたる烏髪という地に降り立った。
彼が川をふと見ると、箸が流れてきた。上流に人が住んでいる証と思い、スサノオが川を上っていくと、老夫婦と美しい娘が泣いていた。
スサノオは尋ねた。
「おまえたちは何者か? そして、なぜ泣いているのだ?」
老人が答えた。
「私の名はアシナヅチ(足名椎)、妻はテナヅチ(手名椎)、そして娘はクシナダヒメ(櫛名田比売)と申します。私どもの娘はもともと8人おりましたが、ヤマタノオロチ(ハ岐大蛇)が毎年やって来ては、娘を食べてしまいます。もうすぐまたオロチが来るので、最後の娘を食われてしまうと思うと、悲しくて悲しくて…」
「そのヤマタノオロチとは、どのような姿をしているのだ?」
「目は熟したホオズキのように真っ赤で、体はひとつですが、頭は8つ、尾も8本あります。体には否やヒノキ、スギが生えており、その長さは8つの谷、8つの峰におよび、腹を見ると一面、血が潜み、ただれています」
それを聞いても、スサノオは恐れず、
「私がそいつを倒したら、おまえの娘を私にくれぬか? 私はアマテラス大神の弟、スサノオだ。たった今、天から降りてきたところだ」
アシナヅチは恐縮した後に懇願した。

「娘は奉りますゆえ、ぜひお助けください」 スサノオは答えた。
「では、何度も醸造して濃くした酒を作れ。また、垣をめぐらして8つの門を作り、8つの桟敷を作ってそれぞれに酒桶を置き、その中にできた酒を入れて、待機しなさい」 彼らがそのとおりにして待っ
ていると、はたしてオロチがやってきた。オロチは門から入って桟敷に身を横たえ、8つの頭を8つの酒桶に入れ、酒を飲み干すと酔いつぶれて寝てしまった。
それを見てスサノオは、十拳剣を抜くと、オロチをずたずたに切り刻んだのである。
ちなみに、スサノオがオロチの尾の1本を切ったところ剣の刃がこぼれたので、不思議に思い調べてみると、鋭い太刀が出てきた。この剣こそ、後に名古屋市の熱田神宮のご神体にもなっているくさなぎのつるぎ草薙剣なのである。
オロチを退治したスサノオは、クシナダヒメをともなって、新居となる寓を建てる土地を出雲に捜し求めた。そして見つけたのが須賀である。この名は、スサノオがその地をことのほかすがすがしく感じたところから来ているとされる。また、スサノオがこの地に須賀の宮を作ったとき、しきりに雲が立ちのばったという。

004.弟の所業にあきれ果てた女神

アマテラス大神の岩戸隠れ

三賞芋の誕生

黄泉国から逃げ帰ったイヴナギ命は、
「われながら、よくあのような犠れた国に行ったものだ。身を清める頑をせねばなるまい」
と、筑紫(九州の古称) の橘の小門の阿波岐原に赴いた。そして、体についた稔れを洗い落とすことにした。すると、頑ぎ祓いのときどきに、新しい神々が次々と生まれてくることになった。その数は23柱におよんでいる。
アマテラス大神(天照大神)も、そうした過程で生まれたひとりだった。彼女は、イザナギが左目を洗ったときに生まれ出たのである。彼女の誕生の瞬間、光が天地いっぱいにあふれ、燦然と輝いたという。
ちなみに、右目を洗った際にツクヨミ命(月読のみこと命)が、鼻を洗った際にスサノオ尊(須佐之男尊)が生まれた。この3人は、以降「三貴子」と呼ばれる天津神となる。3人はいずれも優れた神だったので、イザナギは喜び、叫んだ。
「私は数多の子を生みつづけたが、ついに3柱の貰い子を得たぞ」 そして、アマテラスに命じた。
「おまえは高天原を治めよ」
次のツクヨミに告げた。
「おまえは夜の世界を治めよ」
最後に、スサノオにはこう告げた。
「おまえは海原を治めよ」

こうして3人は、父の命じるままにそれぞれの国に赴くこととなった。ところが、スサノオだけはイザナギのいうことを聞こうとしなかった。それどころか、
「私は、亡き母のいる黄泉国に行きたいのだ」 と、泣いて駄々をこねるのだった。それは、髭が伸びて胸元に届くようになるほど、長い期間だったという。だが、スサノオが泣くと、青葉の山も枯れ木の山となり、川も海も干上がってしまうのだ。しかも、この混乱に乗じて悪神たちが立ち騒ぎ、世の中に災いが起こった。
息子の見せるあまりにひどい醜態に、イザナギは激怒した。そして、
「おまえはもう、この国に住んではならぬ」 と、彼を追放したのである。

姉を悩ませたスサノオの悪行

スサノオは、姉のアマテラスに事情を話してから国を去ろうと、天に昇っていった。そのとき、山や川がことごとく鳴り響き、国土が震えたという。スサノオが昇ってくると知ったアマテラスは、彼が高天原を奪おうとしていると思い、武装して待ちかまえた。
「わが弟ながら、スサノオは悪心を持つ者。この国を奪おうとしているのに違いない」 だが、スサノオにその心はなかった。逆にふたりは、どちらの心が清らかか競うことになった。
神々を誕生させ、生まれた神の性別でどちらが清らかか決めるのである。その結果、勝負は女神が多かったスサノオの勝ちに終わった。
しかしその勝利で図に乗った彼は、とんでもない乱行をくり広げるのだった。アマテラスの田の畦を破り、水を引く溝を埋め、神殿 くそに尿をまき散らし…
各所から非難が集中しても、アマテラスはこれを告めず、逆にかばいつづけた。
「尿と見えたのは、酒に酔って反吐を吐き散らしたのだ。他人の畦を破り、水を引く溝を埋めたのも、土地を惜しんでのことだ。あの弟のしそうなことよ」
だが、しばらくは弟をかばい、その乱行に耐えていたアマテラスだったが、スサノオの悪行のため自らの機織女が死ぬにいたって、ついに恐怖にかられた。アマテラスは破れを忌む機屋で、神に献上する衣を機織女に織らせていたのだが、スサノオはその機屋の屋根に穴を開け、生きたままはいだ馬の皮を投げ入れたのだ。
機織女はこれを見て驚き、機織り用の器具で自らの体を突いて、死んでしまったのである。
事態はもはや収集がつかなくなっていた。
こうして、すべてにうんざりしたアマテラスは御殿の入口にある天岩戸を開き、閉じこもってしまったのである。

アマテラス大神の抵抗

太陽神であるアマテラスが、岩戸の中に隠れてしまったため、高天原どころか地上の葦原中国もすべて真っ暗になった。いつまでも闇夜が続くと悪神がはびこり出し、もろもろの災いが一気に起こることになる。
困りはてた神々は集まって、対策を協議することとなった。そして、知恵の神であるオモイカネ神(思兼神) の案を実行することにした。
やがて、岩戸の前は多くの貢ぎ物などで飾り立てられた。準備が整ったところで、力自慢のアメノタヂカラオ命(天手力男命)が岩戸の陰に隠れた。そして、女神のアメノウヅメ命(天宇受売命)が躍り出たのである。伏せた樽の上で踊る彼女は、興奮のあまり、いつしか半裸となり、これを見た神々は大笑いし、喝采を送った。
すると、外の騒々しさをいぶかしく思ったアマテラスが、岩戸を細めに開けていった。
「私がいないのに、神々が楽しそうにしているのはなぜか? 私が隠れたばかりに、高天原は暗闇に包まれたと思っていたが……なぜか?」
アメノウヅメは答えた。
「あなた様より尊い神がおいでになったので、みなが喜んでいます」
そして、他の神々が
「それは、この方です」
と答えると、ハ爬鏡をアマテラスに向けた。
鏡に自分自身が映ったのを見て、怪訝に思ったアマテラスが身を乗り出すと、すかさずアメノタヂカラオが彼女の手を取って、列に引き出した。
同時に、他の神々が岩戸に注連縄を張っていった。
「ここより中にお帰りになってはいけません」
かくて、世界は明るさを取り戻した。
この後、神々は協議し、悪行をしたスサノオを断罪することにした。大量の贋罪の品を科したうえに、罪を祓うために髭と手足の爪を切って、天から追放したのである。ちなみに、世界的に見ても太陽神が女神である例はない。したがって、アマテラスは希少な存在であるといえる。

003.イザナギの黄泉国下り

亡き妻を求めて…

亡き妻をあきらめきれないイヴナギ命は、イザナミ命を死者の国である黄泉国まで追っていった。
御殿にいた彼女は、門のところで夫を出迎えた。
イヴナギは妻に話しかけた。
「おまえとともに始めた国造りはまだ終わっていない。ともに帰ろう」
イヴナミは答えた。
「私はもうこの国で煮炊きしたものを食べてしまいました。今はこの国の者です。でも、愛しい方がおいでくださったのですもの。この国の神と話し合ってみます。その間、絶対に私の姿をごらんにならないように」
イザナミはそういうと、御殿の奥に引き上げた。
だが、なかなか返事が来ないことに焦ったイザナギは行動を起こした。魔除けの櫛の歯を1本折って火を点し、御殿の奥に踏み込んだのである。ところが、そこでイザナギが見た妻の姿は、凄まじかった。体には姐が湧き、頭、胸、腹、陰部、両手、両足には、それぞれ8体の雷神が取りついていたのである。
これを見たイザナギが怖気をふるって逃げようとすると、後ろからイザナミが叫んだ。
「よくも恥をかかせてくれましたね」
そして、黄泉国の醜女たちにイザナギの後を追いかけさせたのだ。イザナギは髪につけていた黒い鬘を投げ捨てた。すると、そこからヤマブドウの実がなり、イヴナギは醜女たちがそれを食べている間に、必死で逃げた。再び追いつかれそうになったので、櫛の歯を折って投げた。今度はタケノコが生えたので、醜女たちが食べている問に、イザナミはさらに遠くに逃げた。
ところが、イザナミは8体の雷神に1500の軍兵をつけ、さらに追いすがった。
やっとの思いで彼は、黄泉国と現世の境目である黄泉比良坂までやってきた。イザナギはそこで邪気を退ける果実である桃を見つけた。これを3つ投げつけると、さしもの軍兵もことごとく逃げてしまったのである。
最後に、イザナミ自らが追いかけてきた。イザナギは、巨大な千引岩を黄泉比良坂に据えた。
ふたりは千引岩をはさんで向かい合った。
「あなたがこんなことをするなら、私はあなたの国の人間を1日1000人絞め殺します」
イザナミのこの言葉に、イザナギが答えた。
「妻よ、おまえがそうするのなら、私は1日に1500人が生まれるようにしてみせよう」
こうして、この世では一日に1000人が死ぬ一方で、1500人が生まれるのである。
ちなみにこの後、イザナミは黄泉国の大神となっている。

002.兄妹神の結婚が生んだもの

国土と八百万の神々の誕生

イヴナギ命、イヴナミ命は天からの通路である天浮はし橋に立った。そして、天の神々から受けた天沼矛を下界に下ろしてかき回す。矛を引き上げると、その先から滴った海の塩が積もって、オノゴロ島という島ができあがった。ふたりはそこに降りて天御柱を立て、八尋殿を建てた。
ここでイヴナギはイヴナミに尋ねた。
「おまえの体はどのようにできているか?」
「私の体は成り整い、成り合わないところがひとつあります」
「私の体は成り整い、成り余ったところがひとつある。だから、私の体の成り余ったところで、おまえの体の成り合わないところをふさいで、国を生もうと思う」
「そういたしましょう」
「では、この天御柱を回って、出会ったところで契ろう」
そして、イヴナギは柱を左から回り、イザナ三は右から回った。出会ったとき、イヴナ三が 「さてもよい殿御」 といい、後からイヴナギがこういった。
「さてもよい乙女」
こうしてまず生んだのは、ヒルのようなヒルコ(蛭子神)と不完全な島である淡島だった。これを凶兆と捉えたふたりは、ヒルコと淡島を葦舟で流した後、天の神にお伺いを立てた。
すると、次のような託宣が下った。
「女が先に言葉を発したからこのようなことになった。元の地に帰り、改めて行え」 ふたりはオノコロ島に戻り、また天御柱の周囲を回り、今度は先にイザナギが声をかけて契った。
すると、無事に多くの国土と神々が生まれ出たのである。このときに生まれたのは、淡路島、四国、隠岐島、筑紫島(九州)、壱岐島、対馬、佐渡島、そして大倭豊秋津島(本州) の8つの島である。これらを「大八洲国」と呼ぶ。
次に35柱の神々を生んだ。石、土砂、門、風、海、木、山、野の神々などである。
さらに火の神であるホノカグツチ神(火之迦異土神)が生まれた。ところがこの神を生む際、イザナミは陰部に大火傷を負ったのだ。病床で苦しむ彼女の嘔吐物や排泄物からも、神々は生まれた。
だが、火傷はひどく、イザナミはついに亡くなった。彼女の遺体は出雲国(島根県東部)と、伯蕾国 (鳥取県西部)との境にある比婆山に葬られた(これについては三重県熊野市にある花の窟神社とする説もある)。
イヴナギは妻の死をもたらしたホノカグツチを怒り、腰の十挙剣でその首をはねた。すると、ホノカグツチの飛び散った血と体から、合わせて16柱の神が生まれ出たという。

001.創世の神たちの出現

天と地の始まり

遥かな昔、世界がまだ固まっておらず、混沌として、陰陽の区別もなかったころ、天と地ももちろん分かれていなかった。その世界にやがてほの暗い何かが芽生え、それが澄んで明らかになると、昇りたなびいて天となり、重く濁ったものは滞って地となった。
そして、天なる神の世界である高天原に初めて現れたのが、アメノミナカヌシ神(天之御中主神)およびタカミムスビ神(高御産巣日神)と力ミムスビ神(神産巣日神) で、いずれの神も姿を見せ
ることはなかった。
一方、地にはまだ国土ができておらず、水に浮く脂のようにどろどろしてクラゲのように漂っていた。その中から、葦の芽が泥沼から萌え上がるような命をもって現れたのが、ウマシアシカビヒコジ神(宇摩志阿斯詞備比古遅神)、アメノトコタチ神(天之常立神) で、同じく姿を現さなかった。
これらの5神は性別のない独り神で、「別天神」と呼ばれる特別な神々である。
その次に現れたのが、原野の成り立ちに関わる神であるクl一ノトコタチ神(国之常立神)と卜ヨクモヌ神(豊雲野神)。この2神もやはり独り神で、性別はなく、姿を現さなかった。

しかし、これ以降に現れた10柱の神々は、性を持ち、2柱でひと紐となって現れた。そして、5組目に現れたのが、男神イヴナギ命(伊那那岐命)と女神イザナミ命(伊邪那美命) である。
この、クニノトコタチからイザナミまでを、「神世七代」と呼んでいる。
というのは、独り神は一神を一代とし、それ以降は男女を組にして一代と数えるからである。
さて、生まれ出たイザナギとイザナミに対して、天の神々は命じた。
「漂っている地の国に赴き、そこをよく整え、造り固めよ」 これが 『古事記』 に記されている創世の神々のあらましだ。この後に、イヴナギ、イザナミによる国生みと神々の誕生が続くのである。
ちなみに、神々が住む神界・高天原に対し、人間が住む世界は葦原中国と呼ばれる。
これは、『古事記』に(葦の芽)のようなものから、人間界が始まった、との記述があることからきている。

014.最大スケールの戦争叙事詩

『マハーバーラタ』の世界

昔、インドにクル族という一族がおり、ある代 になってドリターフーシュトラとパーンドゥという 兄弟が生まれた。兄は盲目のため、弟のパーンドゥが王位を継ぐ。だが、パーンドゥが早くに亡く なってしまったので、盲目のドリタラーシュトラが王位を譲り受けた。
王には、長男ドゥルヨーダナ以下、100王子と呼ばれる100人の子どもがいた。そして、死んだ弟にはユディシュテイラら5王子がいた。
100王子と5王子は一緒に育てられたが、5王子のほうが何かにつけて優れていたので、100王子は彼らを妬みはじめた。そして、ドゥルヨーダナは策略をめぐらして、5王子を都から追放したのである。

放浪中の5王子はある日、パンチャーラ国で王女ドラウバディーの婿選びの弓大会があることを知った。その大会で王子のひとりアルジュナが優勝したため、ドラウバディーは5王子共通の妻となった。
5王子が生きていることを知ったドゥリヨータナは、計略を用いて5王子を殺そうとしたが。失敗。逆に彼らを帰国させて王国の半分を与えることにした。ユデイシュテイラは王となり、国を繁栄させた。ところが、ユデイシュティラが賭博好きなのを知ったドゥリヨーダナは、それを利用して5王子からすべての土地や財産を、奮ってしまった。そして、こう告げたのだ。
「おまえたちは12年の問、森の中でさまよい、人に知られず暮らせ」 5人の子どもとドラウバディーは、命令どおりほ年間を森の中で隠者として暮らした。
だが13年目に、5王子軍はついに100王子軍
との戦いを決意した。こうして、同族がふたつの陣営に分かれて、凄惨な戦いを展開することになったのだ。この大戦争の結果、100王子軍は全滅、5王子軍も多くの戦死者を出した。
老いたドリタラーシュトラ王は戦死者の多さに世をはかなみ、隠退生活に入った後に死んだ。
戦いを終えた5王子も、すでにこの世に未練はなかった。そこでユデイシュティラは、王位をアルジュナの恵子に譲り、兄弟たちやドラウバディー、そして1匹の犬とともに、神々の住むヒマラヤに登ろうとした。
しかし道は遠く険しく、一族は次々に倒れ、ただひとりユディシュティラのみが、最終の地にたどり着くことができた。そして、4人の兄弟や妻が待っている天国へと昇っていった。
そこにはすでに100王子も住んでおり、クルー族はその後、天国であらゆる怨恨を忘れて、幸せに暮らしたのだった。

013.古代インドの英雄冒険諾

『ラーマーヤナ』の世界

あるとき、ラーヴァナという悪魔が、凄まじい力を得て神々を苦しめはじめた。そこでヴィシュヌが人間の姿に化身して地上に降り、この悪魔と戦うことになった。
ヴィシュヌはコーサラ王国の第1王子ラーマとして生まれた。母は第1王妃であった。強く、賢く、美しく生まれついた彼は、成長してジャナカ王の娘シーターと結婚した。実はシーターはヴィシュヌの妻ラクシュミーの化身であった。
だがラーマとシーターは、第2王妃の陰謀により、森で暮らすことになってしまう。
あるとき、ラーヴァナの妹シュールバナカーが森の中で出会ったラーマを見初めた。そして、彼にいい寄ったが、ラーマはシュールバナカーの恋心を拒絶した。彼女は逆上し、兄ラーヴァナにシーターを奪うようにそそのかした。これが功を奏して、シーターはラーヴァナの手に落ちてしまう。
ラーマはさらわれた妻シーター救出のために、国を追われていた猿の王を助けるのと引き替えに、猿たちの協力を得ることに成功した。そして猿の軍団を率いる将軍ハヌマーンの活躍によって、シーターがランカー(スリランカ) にあるラーヴァナの居城に幽閉されていることを突きとめたのだ。
その後、ラーマは猿の軍団とともに敵地に攻め入り、見事にラーヴァナを打ち倒してシーターを救い出すのであった。
こうしてシーターを奪還したラーマはコーサーフ国に戻り、国を挙げての歓迎の中、王位につく。
だがそれと同時に、国内には不穏な晴が流れた。
人々が、ラーヴァナに長期間、幽閉されていたシーターの貞節を疑いはじめたのだ。ラーマの心して、シーターを追放してしまう。
森の中の聖者の庵で、シーターはラーマの子である双子を生む。これを知ったラーマは彼女のもとへ駆けつけた。
そしてシーターに、双子が本当に自分の子であるかどうか、証明するよう迫ったのだった。シーターは静かに答えた。
「この子たちはあなたの子です。もし私のいうことが真実なら、大地の神が私を受け入れてくれることでしょrつ」 その直後、大地はみるみるうちに割れて、大地の神がシーターをその中に飲み込んだ。神は、シーターの貞節を認めたのである。だが彼女は、その証明と引き替えに、命を失ったのだ。
大地に消えた妻を見て、悲しみにうちひしがれたラーマは、二度と新たな妃を迎えようとはしなかった。そして、シーターを思いながら天に帰っも疑いに揺れた。そして、ついに人々の声に同意たのだった。

012.世界に火をもたらしたアグニ

あらゆるものを浄化する火の神

火の神アクニに対する 『リグ・ヴエーダ』 における賛歌は、全体の5分の1を占めている。
アクニは天にあっては太陽として輝き、空では稲妻として光り、地では儀式の禁火として燃えさかる。家の火、森の火、そして心中の怒りの火や、思想の火、霊感の火などもアクニだった。炉やかまどの神を神格化したとの説もあり、清浄と賢明の神でもあった。
さらにアクニは、神々と人間を結ぶ仲介者の役割も務めていた。生け贅などを燃やして煙とし、天上の神々に届けるのだ。神との仲介者ゆえ、結婚式や誓約式では神聖な証人ともなった。人間に火を与えたのもアクニとされている。
アクニは本来、ゾロアスター教を起源とする神だった。彼が燃やしたものは雷神や悪魔はもちろん、すべてが浄化され尊い存在になる。あらゆるものを飲み込み、灰にする彼の炎が絶対的な力とされたのは当然のことだろう。
だが一方で、彼の貪欲さは凄まじかった。何せ誕生直後に両親をむさぼり食ったというのだ。
それだけではない、その食い散らかした遺体を、自らの炎で焼きつくしたのである。
アクニは多くの場合、赤い体に炎でできた衣をまとった形で表される。そして炎の髪、黄金の顎と歯を持ち、3つの頭と7校の舌、3本の腕を持った姿で描かれる。好物は火を灯すための酢油。
酢油とは、牛乳から作られたバターに似た食用油だ。実は彼の7枚もある舌は、これを余さずなめとるためにあるのだ。
なお、彼には最強の軍神であるスカンタという息子がいるが、彼の誕生にあたっては『マハーバーラタ』にこんな話がある。
モアク二は7人の聖仙の妻たちに恋をしていた。そして、熱い思いでかまどの中から彼女たちを眺めていた。一方、ブラフマーの子のタクシャにはスヴァーハという娘がいた。彼女はアクニに恋をしていた。そこでスヴァーハは聖仙の妻の姿に化け、アクニを誘惑した。
何も知らないアクニは喜んで彼女を受け入れ、ふたりは一夜をともにした。こうして彼女は6人の妻に化け(7人目は失敗)、6回アグニと同裏したのである。その6夜の結果、得られた精液は、アシュベータ山の黄金の穴に落とされた。そして、この黄金の穴から6面12胃の神スカンタが生まれたという。スカンタは生後4日で敵を蹴散らしたため、インドラは最高指揮官の座をスカンタに譲ったといわれる。
なお、アクニは「ヴエーダ」時代には、インドラの次に崇められたほど高位の神ではあったが、現在は同じくあまり崇拝されていない。

011.かつては人気の軍神だった

超兵器を操ったインドラ

インドラは「ヴェータ」神話では最も人気が高く、とくに 『リグ・ヴェーダ』 の中では、全体の約4分の1が、彼への賛歌になっている。
インドラの起源は古く、紀元前14世紀のヒッタイト条文の中にも記述があることから、小アジアやメソポタミアでも信仰されていた神だったらしい。また、雷や稲妻を神格化した存在であるため、ギリシア神話のゼウスなどに相当すると思われる。
インドラの体は黄金色または茶褐色で、髪や髭は赤か黄金。稲妻を象徴する武器ヴァジュラ (金剛杵)を持って、2頭の天馬の引く戦車に乗り、空中を駆け抜ける。天馬ではなく、4本牙の巨大な自乗アイラヴァータに乗るとの伝承もある。さらに、彼が地上に降り立つと虹がかかるともいう。敵は人々を苦しめる凶暴なナーガ(蛇)族のヴリトーフだ。
インドラにまつわる神話を紹介しよう。
- インドラは、天空神ディアウスと大地の女神プリウィティーの子として生まれた。彼が誕生したとき、ヴリトラが雨を降らせず、川の水をせき止めていたため、人々は早魅に苦しんでいた。
生後間もない彼は人々の嘆きを聞くや、必殺の武器ヴアジュラを手にし、神酒ソーマをがぶ飲みして戦いに赴いた。
戦いの末、ヴリトラに勝利したインドラは、恵みの雨を受けた人々の尊崇を集めた。やがて父を倒し、自分の地位を不動のものとした彼は、それを契機に最高神となったのである。
なお、ヴリトラを倒したことにより、後にインドラはヴリトラハン (ワリトラを殺す者)という異名をも持つようになった。
ところがインドラは、時代を経るにしたがって人気を失い、その地位はシヴァにとってかわられていく。その人気の凋落ぶりは、『ラーマーヤナ』の中で悪魔に捕まる存在にまで姪められてしまったほどなのだ。
だが、一部の伝承の中では依然として、インドラは神々の王として崇められており、神の都アマーラヴァティーの楽園で、天女たちに囲まれて暮らしているという。この都は神々、人間なら聖者、英雄として死んだ者しか入れない場所とされる。
これも北欧神話における、ウルハラ宮殿を彷彿とさせるものである。
なお、叙事詩『マハーバーラタ』などに登場する英雄たちの超兵器のひとつが、「インドラの炎」や「インドラの矢」などと呼ばれるもの。これは太古のインドで、インドラが悪魔の王ラーヴァナの大軍を一撃で死滅させた武器である。
ちなみに仏教に取り込まれた後のインドラは、帝釈天と呼ばれ、東方を守る守護神となった。

010.鬼女はなぜ改心したのか?

ハリティーが鬼子母神になったわけ

日本でも「鬼子母神」として知られている女神が、ハリティーである。もとは「ヤクシニー」という鬼女の一種で、鬼神王パーンチカの妻であった。なお、ヤクシニーは「夜叉」の語源である「ヤクシャ」の女性形。
ハリティーの神話とは、次のようなものである。
iハリティーとパーンチカの問には、500人(1000人、1万人という説も) もの子どもがいた。彼女は、このたくさんの子どもを養うために、人間の子どもをさらってきては餌として与え、なおかつ自分も食べていた。
あるとき、ヴィシュヌのアヴァクーラであるブッダは、嘆き悲しむ母親たちの声を聞いた。
「鬼神の妻のハリティーが、自分の子どもを育てるためだといって、私たちの子どもをさらって食べてしまうのです」 ブツダはこの声を聞いて胸を痛め、ハリティーを懲らしめることにした。そして、彼女が最もかわいがっている末の子をさらい、隠してしまったのである。愛しいわが子が姿を消したと知って、ハリティーは半狂乱になった。
「私のかわいい赤ちゃん、どこへ消えたの?」
鬼女の身では、もちろんブツダが隠したわが子を見つけることなどできない。日夜、泣き叫び、やつれ果てたハリティーは、ついにブツダに助けを求めた。彼女の前に姿を現したブツダは、次のようにさとした。
「おまえは500人もの子どもを持っているが、たったひとりいなくなっただけで、こんなにつらい思いをするのだ。ましてや、おまえに比べればごくわずか、ひとりかふたりの子どもしか持たない人間たちが、その子どもを失えば、どんなに悲
しみ、苦しむか‥‥。その気持ちがわかったか?」 こうして、ハリティーは人間の痛みを知り、自らの所業を悔いた。ハリティーは三帰・五戒(三宝すなわち仏法僧に帰依し、5つの戒めを守ること)を受けて仏弟子となり、ブツダはやがて彼女を鬼女から女神へと引き上げた。こうして彼女は安産と育児の女神、鬼子母神として信奉されるようになったのである。
そして人間の子どもの代わりに、子どもを守る力があるとされている果実である吉祥果(ザクロ)を食べるようになったのだ。ザクロは中に種子がびっしりと詰まっているため、繁栄の象徴ともされている。また、よく 「ザクロは人肉の味がする」 などといわれるが、この俗説は以上の神話に由来しているとされる。ちなみに、この話は古代の飢饉時に、実際に人肉を食べた女性の話をもとにしているという説もある。