006.イザナギ命の右目から生まれた神

食物の神を惨殺したツタヨミ命

太陽を司るアマテラス大神に対して、月を司るのがツクヨミ命である。姉のアマテラスや弟のスサノオ尊と異なり、ツクヨミは 『古事記』にはあまり登場しない。わずかに父であるイザナギ尊に、統治国を割り当てられる場面のみなのだ。ここでは 『日本書紀』 に見られる、とくに有名なエピソードを紹介しよう。
- あるとき、ツクヨミはアマテラスの使いで、高天原から葦原中国に降りた。そして、五穀豊穣かつ食物の女神であるウケモチ神(保食神) のもとを訪れたのである。思わぬ神の訪問に喜んだウケモチは、精いっぱい彼をもてなした。すなわち、まず陸を向いて米を、海を向いて魚を、山を向いて獣の肉を口から吐き出し、それを調理したのだ。
ところが、これを見たツクヨミは激怒した。
「口から出したものを食べさせるなんて、なんて汚いことをするのだ」
そして、いきなりウケモチを斬り殺してしまったのだ。すると、女神の頭から牛馬、額から栗、眉から蚕、目から稗、腹から稲、陰部から麦、大一軍小豆が生まれたので、ツクヨミはそれを高天原に持ち帰った。
ところが、ウケモチを殺すという、弟のあまりの暴挙を知ったアマテラスは怒り、次のようにいいはなった。
「もうおまえの顔は、二度と見たくない!」
その結果、姉弟は決定的に不仲となってしまった。そして、それ以来、ふたりは昼と夜に分かれて住むようになり、太陽と月が同時に空に上ることもなくなったのである。これが「日月分離」の神話と呼ばれるものであり、ひいては昼と夜の起源となったのだ。
ちなみに、ウケモチの体から生まれた五穀である稗、稲、麦、大豆、小豆を、アマテラスは民が生きていくのに必要な食物だとして、これらを田畑にまく種とした。
なお、ツクヨミの統治国に関しては、前述のように 『古事記』においては夜の世界となっているが、『日本書紀』の中では、海原の統治をも任されたとする解釈も見られる。これはおそらく、月が潮汐を支配しているという発想からきたものだろう。
ただし 『古事記』によれば、イザナギから海原の統治を任されたのはスサノオ尊のはずであり、右記のウケモチ殺害についても、スサノオにまつわるエピソードに酷似した話がある。
ツクヨミとスサノオ、どちらも男神で性格は粗暴という設定である。それゆえ、もともとこのふたりは、同一の神であったとする研究者も少なくない。